2005年03月23日

天敵利用の新しい試み

2005年現在、日本における天敵利用が一番進んでいる作物はイチゴでしょう。
弊社の所在地である静岡県においても、2003−2004年のシーズンで約20ヘクタールのイチゴ畑で天敵昆虫が利用されました。
静岡県のイチゴ栽培面積が約400ヘクタールなので、概ね5%程度の面積で天敵昆虫が使われたことになります。
全国に目を向けると、イチゴ栽培面積約7400ヘクタールに対し280ヘクタールの天敵が使われています。4%弱の普及面積なので静岡県のイチゴにおける天敵普及率は全国平均よりちょっと上といえます。

イチゴで使われる天敵は、ハダニに対するチリカブリダニとミヤコカブリダニ(商品名:スパイデックス、スパイカル)、アブラムシに対するコレマンアブラバチ(商品名:アフィパール)スリップスに対するククメリスカブリダニ(商品名:ククメリス)などが代表的なものです。

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ハダニ防除は一昨年登場したミヤコカブリダニが活躍しそうな状況です。
チリカブリダニはハダニを食べる量が多いのですが、餌であるハダニを食べつくしてしまうと共食いを始めチリカブリダニ自身も次第に少なくなっていってしまいます。
これに対してミヤコカブリダニはハダニの捕食量はチリに比べ少ないのですが、ハダニがいない状態でもその他のホコリダニやコナダニ、花粉などを食べて生き続けることができます。
また活動できる温度域もチリに比べて広いため、厳寒期などでも活動できることが知られています。
従ってミヤコカブリダニの方が畑における定着が優れているといえます。
このミヤコカブリダニの性質は、長期間収穫を続けるイチゴにとって抑え続ける意味で大変に都合のよいものです。


アブラムシの防除にはコレマンアブラバチが大変効果的に働きます。
コレマンアブラバチをイチゴ畑に放つと、体長2mm程度の成虫がアブラムシを探索して卵を産みつけ、アブラムシ体内で孵化した幼虫によりアブラムシを死滅させます。
農薬のかかりにくいクラウン内部などに寄生しているアブラムシも見つけ出すので、効果は非常に安定しています。
コレマンアブラバチが働きだすと、一作を通じてアブラムシの防除がいらないほどの効果を表します。


ハダニ、アブラムシの天敵防除に比べ苦戦しているのがスリップスの天敵防除です。
スリップスは微小な昆虫で春先の気温上昇とともに大量に増殖し施設内に飛び込んでくるため、ククメリスカブリダニで完全に押さえ込むことがなかなか難しい害虫です。

スリップス防除は天敵のみならず、0.4m目の防虫ネットや粘着シートを併用して飛び込みを抑える方法が必要です。



天敵を充分に活躍させるための方法として「バンカープラント法」があります。
天敵が増殖しやすいように、栽培している作物の害にならないような昆虫を寄生させた植物を植え付け「天敵の生産工場」的な働きをさせるものです。

アフィパールを使う際のアフィバンクは、イチゴに寄生しないムギクビレアブラムシを麦に寄生させたものです。
これを圃場に植えつけておくとアフィパールが次から次へとムギクビレアブラムシに卵を産みつけアフィパールの成虫が大量に発生します。
これにより初期に導入した天敵を増殖させ効果がより安定します。
アフィパールが発売された当初、アブラムシの防除効果が今ひとつ安定しなかったのですが、アフィバンクを導入し始めてからその効果は劇的に変化しました。
アフィパールは一番効果を確認しやすい天敵の一つに変身を遂げたわけです。


現在、弊社ではスリップス防除にこのバンカープラント法を導入できないか検討中です。
ククメリスを増やすため、稲わらや籾殻を圃場に置いてククメリスの生息場所を作ったり、タイリクヒメハナカメムシの餌や産卵場所となる鉢植えの花を植えつけて増殖を促す方法です。
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これによりスリップス防除が確実なものになれば、イチゴの天敵防除はもっと取り組みやすいものになるものと確信しています。

もちろん防虫ネットや粘着シートの併設は不可欠なものであります。IPMの基本ですから。手(チョキ)
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2005年03月19日

IPM雑感

1995年にハダニの天敵チリカブリダニとコナジラミの天敵オンシツツヤコバチが農薬登録されてから、IPM(integrated pest management;総合防除)という言葉が日本でも一般的に使用されるようになってきました。

弊社ウェブページでもご紹介している通り、 一つの方法のみならずいくつもの方法を組み合わせて害虫防除をしていこうという考え方です。

ところがIPMというと天敵昆虫をイメージする傾向が強いようで、 県や国などの指導機関が作るIPMマニュアルにも天敵昆虫を利用して防除する考え方が主役になっているように感じられます。

 

例えばトマトの黄化葉巻病が問題になっている地域では、 天敵昆虫によるコナジラミ防除は有効な手段といえません。 天敵昆虫が黄化葉巻ウィルスの媒介者であるシルバーリーフコナジラミを駆逐している間に病気は広がっていってしまうからです。

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従ってトマト黄化葉巻病発生地区におけるIPMとは、必ずしも天敵昆虫が主役になるものではありません。 こういった場所では速効的に効果を現す化学薬剤に加え、コナジラミを施設内に侵入させないための防虫ネット、 物理的にコナジラミを捕殺する粘着シートなどを用いることが重要となってきます。

またやみくもに粘着シートなどを設置するのでなく、 コナジラミの挙動を把握した上で効率的な場所や設置方法を考えることが重要になってきます。 トラップの手法としては害虫をできるだけ一ヶ所に集め一網打尽にすることが基本なのです。

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これは施設の立地条件によっても変化するものなので、施設個別に設置方法を検討する必要があります。

 

西日本のあるトマト産地では黄化葉巻病の発生が激しく、薬剤による防除圧が高くなり効果のある剤がなくなってしまった話も聞いています。

こんな産地でこそIPMの考え方が重要になってきます。それは前述した防虫ネット、粘着シートは必須のアイテムであり、 施設を二重扉にするとか風を利用して害虫を入りにくくするとかの様々な手法が必要であるということです。

 

二重扉や粘着シートの設置を提案すると、「手がかかって面倒」とか「良いのはわかるが忙しくてやってられない」 のような反応が返ってくることが多いのですが、直接収量に影響する病害だからこそ、こういった手間をかけることが必要と思われます。

 

農薬を使っても、天敵を使わなくてもIPMは実践できます。まず害虫を施設内に入れないことの工夫がIPMの第一歩なのですから。

posted by savegreen administrator at 18:25| Comment(0) | TrackBack(0) | IPM | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする