農薬の散布というと一般的にはあたかも毒を作物に向かってまいているようなイメージがあるかと思いますが実際のところこれは間違っています。
今の農薬は作物への残留によって人の健康が損なわれることはありませんし、よく言われる「農家は自家消費する野菜に農薬はかけない」などと言われるのも誤解であるところが多いようです。
詳しくは農薬ネットをご覧になって頂ければご理解できるかと思いますが、要約すれば農薬は通常の使い方をしていれば残留による健康被害の問題はなく、人類が安定的に野菜などの食料を摂取するためには不可欠なものということです。
農薬の毒性という問題は別の機会に譲るとして、今回の話は農薬散布の限界ということです。
前述の通り農薬はその安全性や効果を総合的に考えて、現在の農業にとっては不可欠な資材といえます。
害虫や病斑にかかれば効果は確実に現れますし、予防的に使用できる薬剤も数多く登録されています。
ところが何回散布しても効果がないという声もよく聞かれます。これはどうしてでしょう?
写真は生育期のあるトマトとイチゴのハウスです。
トマトは生育盛期の6月、イチゴは生育初中期の12月に撮影しましたが、トマトの樹はすでに数多くの葉が混みあっておりここに農薬を散布しても全ての葉に充分にかからないことと思われます。
イチゴにしてもまだ株が小さいですが、この後3月から5月にかけては高さが30cm以上に育ちかなり葉が混みあってきます。
この12月のイチゴの樹の状態で薬剤散布をしている後について、どの程度葉裏まで薬液がかかっているのか確認したことがあります。
散布者はイチゴ栽培暦10年以上のベテラン農家の方で、散布液量も10a当り300リッターと充分量をかけましたが、10枚の葉を調べて3枚程度は全く薬液がかかっていない状態であることがわかりました。
これは混みあっているトマトの葉でも同じでしょう。
薬剤が効かない、残効が短いというのはかけ残しがあってそこに寄生している害虫が死滅していないのが原因であろうと推測したわけです。
弊社が薦める天敵による防除では、放飼(天敵昆虫を圃場に放つこと)のタイミングさえ間違えなければ効果のムラは極めて少ないものとなります。
例えばアブラムシはイチゴの生育初期にはクラウンの内部(新芽が混みあっている部分)に寄生していることがあって薬剤の散布では充分な効果が得られないことがありますが、アフィパール(コレマンアブラバチ)は葉が混みあった部分までアブラムシを探索し卵を産み付けます。
農薬は害虫が多発生のときでも速効的に効果を現します。これが農薬の利点ですが散布した薬液がかからなければ効果を得ることができません。
生物防除は害虫の多発生時には対応できませんが、散布ムラという弱点が少ないことや効果の持続性(生き物なので世代を繰り返すことで長く効く)がその利点です。
IPMはこういった防除方法の優れたところを組み合わせて病害虫を抑えていこうという考え方です。
農薬の限界を天敵や防虫ネットでカバーするやり方は、今後更に拡大していくものと考えています。