2006年02月20日

ポジティブリスト制とドリフト問題

先週2月16日は全農薬の名古屋ブロック会議でした。

農薬工業会の内田安全対策委員長より「ポジティブリスト制度導入と飛散防止」という演題でお話があったので興味深く聞いてきました。


それを聞いて一つ訂正を、

前回のブログ記事
「例えば単一の作物を大面積で栽培している産地ではドリフトによる適用外薬剤の残留はあまり問題にはならないでしょうが・・・」
と書きましたが、これは私の完全な認識不足でした。

例えば水稲単作地帯の真ん中にぽつんと野菜畑があった場合を考えると、薬剤散布によるドリフトは大問題です。


単一の作物を大面積で栽培していようが、小面積に多品種の作物を栽培していようが、ドリフトの問題は必ず起こります。



今日はこの辺の話題を。

ポジティブリスト制の導入ですべて作物へ農薬等の残留基準値(農薬等が残留しても良い基準値)が設定され、その基準値を超える農薬等が残留している食品は流通禁止となります。

これは現行のネガティブリスト制では、越えてはならない農薬の残留値を設定してあり、そのリストにない農薬の残留が規制できない(海外など日本では登録のない農薬等の残留は規制できない)ことからすると、いわゆる「毒菜」問題で健康被害が取りざたされた輸入農産物の安全性に対してはかなりの前進と言えるでしょう。

ところがこの「すべての作物に農薬の残留基準地が設定される」ことが諸刃の刃になりかねない問題がドリフト(近隣圃場への散布薬剤の飛散)です。


「ポジティブリストで残留農薬を調べてみよう」というページがありますが、こちらではご自身が栽培されている作物の残留基準値を確認することができます。

弊社は静岡県の企業なので「お茶」の残留基準値を見てみましょう。
ここには「茶」に対する267農薬等の残留基準値(案)が掲載されており、これを越える残留値のお茶は流通ができないというわけです。

ここにはお茶の栽培で使用する一般的な薬剤(アセフェート=オルトラン、イミダクロプリド=アドマイヤーなど)や、国内で流通していても「茶」への登録がない薬剤(シモキサニル=ホライズン、カーゼートPZ、ブリザードなどの1成分、フィプロニル=プリンスなど)、加えて国内では流通していない薬剤の残留基準値を調べることができます。

お茶畑の隣で野菜を作っているのは比較的見受けられる環境ですが、例えばここでキャベツに登録があるプリンスフロアブルの残留基準値を見ると・・・

フィプロニル(上から180番目=4分の3くらいの位置にあります)の基準値案・・・


0.002ppm!

これは国内や海外に登録がなく一律で設定される基準値の0.01ppmより更に低い値です。

0.002ppmがどんな数字かといえば、1ppmが100万分の1ですから、それの更に1000分の2ということで10億分の2=5億分の1ということになります。

5億分の1と言ってもピンとこないですよね。
よく言われる例えですが、東京ドームを満員にすると55000人ですけど最近はジャイアンツも人気低迷なのでざっと50000人で数えてみると、東京ドームに50000人入れて20個集めたうちの一人が1ppm(100万分の1)ということになります。
0.002ppmは更にその500倍になるので20個×500=10000個の東京ドームに50000人ずつ入れて、そのうちの一人が0.002ppmになるわけです。

極々微量な数値ということがお分かり頂けたでしょうか?

dom.jpg
(余談ですが、東京ドームの面積は約46000u(46ヘクタール)で、これを500個集めると23000ヘクタールということで、静岡県のお茶栽培面積と同じくらいになります)



プリンスフロアブルは元々水稲用の殺虫剤であるプリンスをフロアブル化して、キャベツを始めとする野菜や花き類に登録を取ったもので、燐翅目害虫のみならずアザミウマにも効果があり既存の系統とは違う薬剤ということで普通に使われている剤です。

キャベツには2000倍で使用しますが、製品のフィプロニル含有量は4.4%なので2000倍希釈液の濃度は22ppmということになり、お茶へドリフトした場合には基準値よりも10000倍程度の高い濃度の薬液が付着することになります。

フィプロニルのキャベツへの残留基準値は0.05ppmなので散布液は基準値の500倍程度の高い濃度となり、フィプロニル自体の分解が早いことが予想されますが、いずれにせよお茶畑の周辺での使用には充分な注意が必要と思われます。



ドリフト対策としては日本植物防疫協会のマニュアルが大変詳しく解説をされていて、これを熟読すれば薬剤側から見たドリフトの防止法はよくわかると思います。
(ドリフトの特徴:不均一など興味深い記述が多い)

しかしこの中で「補完的技術」として取り上げられている「近接作物栽培者との連携」が意外と一番重要だったりするんじゃないでしょうか?
隣で何を作っているのか把握して、例えば例えばJAの指導員や肥料屋さんと相談して散布する薬剤を決めるようなことをすれば、予期せぬ事故はかなり減るんじゃないかと考えます。

drift1.jpg
posted by savegreen administrator at 11:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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